NEWアルバム、Ghostface Killah(ゴーストフェイス・キラ)36 Seasons(36シーズンズ)

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Ghostface Killah(ゴーストフェイス・キラ)の「36 Seasons(36シーズンズ)」は、独特の緩急がついたアクションムービー仕立ての作品となっている。

ニューアルバム「36 Seasons」のリリースを含めると、Tony Starks(トニー・スタークス:ゴーストフェイス・キラの別名)は18年間で11枚のアルバムをリリースしたこととなる。そして、常に作品の鍵となっているのが、その不変性である。「Ironman(アイロンマン)」では、Wu-Tang(ウー・タン)ファンにオリジナルのストーリーテリングを披露し、その後のほとんどの作品でその独自性を貫いている。「36 Seasons」は、その流れを継ぎつつ、表面化でこれまでとは異なるユニークなストーリーラインを展開している。

コンセプトアルバムである「36 Seasons」は、Tony Starksが9年間(36の季節を経たのち)の服役を終え、地元スタテン・アイランドに戻ったという設定から始まる。彼の帰郷は絶望でしかなかった。街では建物が荒廃し、コカイン中毒者たちがゾンビの様に通りをよろよろと歩いている。若い世代はゴーストフェイスの伝説を思い出すことも、認識することもできない。ゴーストフェイスは、銃撃され重傷を負い、また不正が横行する警察官の手によって逮捕されるという苦難に直面する。しかし、新しい環境により、彼はその苦難を切り開いていく。Pharoahe Monch(ファロア・モンチ)扮する、狡猾だが非常に有能なDr. X(ドクター・エックス)による緊急手術のおかげで、ゴーストフェイスは死を免れる。アルバムカバーでは、Dr. Xが、ゴーストフェイスをBane(ベイン)やJason Voorhees(ジェイソン・ボーヒーズ)のようなモンスターに変貌させている。アルバムの最後には、刑期を終え、“シティ・ディフェンダー(街を守る者)”となった、別名GFKが登場する。

予想通り、アルバムはとてつもなくリリカルである。AZ(エージー)(同世代のラップ仲間の中で一番ラップがうまい)は5曲の参加、Kool G Rap(クールGラップ)(OGであり、リリカル・ダイナモでもある)は3曲の参加、そしてPharoahe Monchの参加など、多くのベテラン勢も名を連ねており、すべてのヒップホップファンが喜ぶ作品となることだろう。前述のアーティストたちの声は、ゴーストフェイスも含めて、20年前から色褪せていない。『The Battlefield(ザ・バトルフィールド)』で、ゴーストフェイス・キラは、AZとKool G Rapと共に、次のようにラップしている。

“And my name’s faded out like some old damn socks (俺の名前は古びたソックスの様に忘れ去られている)/ I want respect, these streets was my playground once (リスペクトが欲しい、このストリートはかつて遊び場だった)/ I was the Mack across 110th on these stunts (俺は110thで目立ちたがりのMack(マック)だった)/ Not once would a nigga test me or get zesty(ニガーは一度もテストすることはない、刺激をくれるだけだ)/ I would walk down the street and sneeze, they all blessed me.(通りを歩いてくしゃみをする、みんながお大事にと言ってくれる)”

本作の制作は主にThe Revelations(ザ・レバレーションズ)によって行われ、作中すべての演奏も担当している。また、彼らはよくある漫画のストーリーのサイレント・ナレーターとしての役割も果たしている。作品のテーマはアルバムの最初の部分で確立され、R&Bの楽曲も3曲散りばめられている。これらの楽曲は、ヒットするか否かに関係なく、LPにもう一つの側面を与えている。Kandace Springs(キャンデス・スプリングス)は『Bamboo’s Lament(バンブーズ・ラメント)』で良いペース変化となり、The RevelationsはThe Pretenders(ザ・プリテンダーズ)の『A Thin Line Between Love And Hate(ア・シン・ライン・ビトウィーン・ラブ・アンド・ヘイト)』の感傷的だがグルーヴィーなカバーを提供している。アルバムのリリカルな部分に不変性をもたせるため、クリーンで注意深くアレンジされた語り口のシーケンスに重点を置いた。しかしそのことで、制作に遅れが発生した。しかし、カオティックなカーチェイスの音、そして流れ星のように飛び出す論理的なラップの狭間で生きるMCの、その猛烈なエネルギーは作品に閉じ込められ、制作は終了した。アルバムの前半では、ビートはゆったりとしたピアノのメロディーにのせられているが、後半の展開には少し計画性に欠けているようにみえる。ビートは単調になり、時折発せられるゴーストフェイスの言葉にインスピレーションは感じられない。「Fishscale(フィッシュスケール)」のようなアルバムの次に、まるで、各楽曲の新鮮さがプロデューサー集団によって組み立てられてしまったかのようだ。「36 Seasons」はゴーストフェイスの過去の作品と比較して、ダイバーシティに欠けていると言っていいだろう。

「36 Seasons」は、ゴーストフェイスの最高のプロジェクトではないかもしれない。しかし、これまでの豊富な作品に新たな注目作が追加されたと言うことはできるだろう。アルバム内のほとんどの楽曲で、栄光に輝くKool G RapやAZらと共演できることは、非常に特別なことである。一方、制作に関しては、Ghostface Killah、Pharoahe Monch、AZ、Kool G Rapの間に存在するリリカル・ダイナミズムが欠如してしまっている。The Revelationsの仕事は賞賛に値する。しかし、その計算しつくされたスケッチにより、ゴーストフェイスの最高なプロジェクトを突き動かす、むき出しの原動力の一部を奪い去ってしまっている。

▼Ghostface Killahプロフィール▼
http://illegal-assembly-of-music-dark.com/ghostface-killah/

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